決まってんに、決まってんじゃん

「馬と付き合っていく上で、一番大切なことはなんですか?」

こんな質問をされたことがあります。

それに対しての答えは、相手によって異なるし、その質問に到達するまでの会話にもよりますが、その時は「将来的に自分で馬を飼ってみたい」という二十歳の女の子でした。

とても感受性の豊かさを漂わせた子でしたので、僕はこう答えました。

「『馬と人とは絶対にわかり合えない』。そのことを理解した上で、一所懸命に伝えようとし続ける、わかろうとし続けることかな。だから、一番やっちゃいけないのが、伝わった気になっちゃうこと、わかった気になっちゃうことなんだよね。」

でも、実はこれ、人間同士の付き合いにも当てはまると思うんですよね。

それぞれ異なる環境で育った者同士が、そう易々とわかり合えるはずないですよね。

しかし、人間同士というのは、言葉というものがあるがゆえに、それが可能なのではないかという妄想に捕らわれてしまうのだと思います。

言葉を使えば、自分の思いを全部伝えることができる、相手の気持ちを全部知ることができる、と。

確かに言葉を巧みに利用すれば、かなりの面で細かな表現を伝えることはできると思います。

ただ、言葉の意味としては伝わっても、そこにある真意というのは、話す側にも、聞く側にも、相当な覚悟がなければ、互いが知った気になっただけで終わってしまうのではないでしょうか。

2001年の『爆笑オンエアバトル(NHK)』で、バナナマンさんが張り込みをする刑事のネタを披露したのですが、このコント、遅れてきた設楽さん演じる若手刑事を、日村さん演じる先輩刑事が叱るところから始まります。

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日村:俺、(待ち合わせ時間は)夕方って言ったよね?

今、何時?

設楽:8時です。

日村:あ~あ、やっちゃった。

夜じゃん。

8時ったら、完全に夜じゃん。

言っときますけどね、夕方って言ったら4時半から6時までのことを言いますからね。

設楽:えっ?それって決まってるんすか(半笑)?

日村:決まってんに、決まってんじゃん!

どうです?

知ってました?

決まってんに、決まってるの。

ちなみに、下の写真は今年の7月4日午後8時4分の富良野地方の空ですが、これは夕方ではなく完全に夜なんですね。

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また、時間のことで言えば、「10時に出発するので、それまでに集まって下さい」と言われた場合、30分前に行くことが“当たり前”の人もいれば、10時ちょうどに行くことが“当たり前”の人もいます。

ちなみに僕は、15分くらい前に近くまで行っておいて、他の人の動向を伺ったりすることがあります。

あんまり早く着いてワクワクしていると思われるのはシャクだし、みんなを待たせてルーズな人と思われるのも嫌なんですね。

そんな具合に、言葉の意味は分かっていても、受け止め方は千差万別。

まして、四つ脚の草食動物に、二足歩行の雑食動物がまたがり、同じ何かを感じ合おうというのですから、簡単にいくわけがありません。

それでも、神経を集中させて、伝えよう、伝えようとし続けていれば、知ろう、知ろうとし続けていれば、二人っきりの空間が生まれる、いや、生まれた気になることがあります。

これが馬との付き合いのなかで、最も気持ちいい瞬間であり、これがあるからそれを続けていけるのではないかと思います。

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