君の名は

馬の名前について聞かれることもよくありますね。

昔、北海道では馬に名前を付けない習わしがあったと聞きます。

それは、北海道の馬と言えば、その役割は農耕でしたから、農繁期を終えたら馬は“穀潰し(ごくつぶし)”となります。

ですから、秋の収穫作業を終えてから、翌春まで馬を養っていける体力のない農家さんは、冬が来る前にその馬を売って年越しの費用に充てたわけです。

そして、おそらくは、売られていく馬の次の役割は、“桜肉”であったのだろうと…。

それを知っていながら、自分たちが生き延びるために、一所懸命に働いてくれた馬を馬運車に乗せるとき、名前があると情が深くなり、ためらいの気持ちや、罪悪感に苛まれてしまうからだそうです。

そんなこともあり、人間のように、生まれてくる前から名前を考えていたり、生まれてすぐに命名すると言うことは滅多にないですね。

生まれてしばらくは、「○○(お母さんの名前)の仔っ子」とか、他の個体と被らない特徴であれば、毛色で呼んだり、「流星」とか、「鼻白」とか、要するに管理する上で判別できればいいのです。

サラブレッドの場合は、生まれてすぐに登録しなければなりませんので、「チヨダマサコの2016」のように、お母さんの名前と、生まれた年をセットにします。

そして、その馬を競走馬として購入した馬主が名前を付けるのですが、その場合、“冠名”を付けることが多いですね。

メジロ○○、ダイナ○○、トウショウ○○、マチカネ○○、フサイチ○○、ホクト○○、シンコウ○○とか…。

ちなみに、上記の冠名は全て使用されなくなってしまいました…。

字数は2文字以上9文字以内で、広告はダメだったり、実在の有名人の名前や、過去に登録のあった馬名も、使えるものと使えないものがあったりと、そんなに厳しくはないものの、一応審査があります。

もう言えば、1993年8月11日に生まれた子供に、父親が“悪魔”と命名しようとして騒ぎになったことがありましたね。

結果的には“悪魔”も“あくま”も受理されなかったと記憶しています。

その翌年、僕の知り合いの馬主が、自分の馬に“アクマ”と命名し、日本軽種馬協会に申請を出しましたが、あえなく却下されました。

遊馬では、命名で一番大事なのは“呼びやすさ”ですね。

モンテトウルヌソルとか、キンシャサノキセキとか、ククルククパロマとかだったら、全部の名前を覚えるだけでも3カ月かかっちゃいますよ。

馬名は個体を判別するために、便宜上割り当てられるものですから、“アクマ”でも、“ノロイ”でも、“トランプ”でもいいんです。

名前は、人間社会が便宜上割り当てた文字の組み合わせだと僕は思っています。

ですから、「馬は自分の名前を分かっていますか?」と聞かれたら、「分からないと思いますよ」が、僕の答えです。

ただ、「分かっていますよ」と答える人も大勢いると思うので、そう答えて欲しい人は、そう答えてくれる人と仲良くしてもらったらいいと思います。

また、僕が「分からないと思いますよ」と答えると、「犬は分かるのに…」という人もいます。

しかし、これも僕に言わせれば、名前を理解しているのではなく、“音”に対して、反応しているだけです。

手を叩いたら、いけすの鯉が寄ってくるのと同じです。

ただ、これは「馬や犬に名前を理解する能力はない」という意味ではありません。

「そんな必要がない」と言うことです。

仲間に危険や自分の居場所を知らせるための嘶きや遠吠え、あるいは威嚇や求愛などを音で表現することはあっても、個々で名前を持ち合う必要なんてないし、もしも必要ならば、人間ではなく自分たちで所持しているはずでしょう。

こんな考えだから、僕の命名した馬は、“ミノさん”、“湯どうふ”、“冷や奴”、“鈴木さん”、“ジェロムレバッチ”など、ろくなものがありません。

途中で改名させられた馬も結構います(笑)。

まぁ、でも、一般的には名前と言うのは、命名する側の願いを込めて付けるものなのでしょう。

そんな訳で、明日は『マイルチャンピオン』を馬名で占ってみようと思います。

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