はじめましてのチョキちゃんです。
昨日、馴致調教中のチョキちゃんに乗せてもらいました。
外から見ていて、乗り手の指示と関係なしに立ち止まるような面が窺えたので、その辺を注意して乗せてもらいました。
こういう場合、自分の意思で停止した馬を再度動かすのは、なかなか大変なものです。
自分の意思で停止したということは、乗り手の意思を無視しているとも言えますから、軽く「さぁ、行くよ」という程度の合図では動いてくれないケースが多いです。
そうなると、どうしても強めに脚を入れなければなりません。
それでも動かなければムチを入れる。
それでダメなら拍車をかける…といった具合に、より強い刺激を与えなければならなくなってしまいます。
これでは、遊馬に相応しい馬にはなれません。
ですから、僕は最初に、その馬が確実に反応する範囲内での、最小限の合図を先に出します。
最初から拍車が必要なら拍車をかけますし、ムチが必要ならそれを使います。
しかし、チョキの場合はその必要はなく、止まりそうになった瞬間に、ガツンとハミを掛けさせてもらいました。
これに驚いて少し小走りになりましたが、馬自身も止まっちゃいけないことは分かっていたと思います。
訳も分からずいきなりガツンとやられたら、もっと反抗するか、パニックに陥ったりするはずです。
わかっちゃいたけど、いきなりあんなに高圧的に乗られた事はなかったでしょうから、少し驚いてしまったのですね。
でも、馬を痛めつけるのはこの一回で十分です。
次の周回では、止まりそうな雰囲気を出したところで、舌鼓を入れます。
舌鼓とはなんぞや?と思われる方も多いと思います。
これ、そのまま読んだら「したつづみ」ですよね。
しかし、これ馬世界では「ぜっこ」と読みます。
そもそも、“したつづみ”と言うのは、舌打ちの種類の一つで、昔の人は美味しいものを食べると、「チッチッチッ」と舌を鳴らしたのだそうです。
これが“したつづみ”であるということは、イエスズ会の宣教師の辞書にも記されています。
そう言えば、時代劇なんかで、茶店から出てきた浪人さんが爪楊枝をくわえながら、「チッチッチッ」ってやってますもんね。
ちなみに、爪楊枝を最初に使用したのは、多くの人が“木枯らし紋次郎”だと思っているかと思われますが、ネアンデルタール人が使用していたとする学説もあります。
…もとい。
舌鼓ですね。
要するに、“ぜっこ”も“したつづみ”も、「チッチッチッ」と舌を鳴らしたり、「コッコッコッ」と舌で上あごを叩いたり、奥歯の付近で「クックックッ」と音を出すことに相違ありません。
上記の3種類のうち、「チッチッチッ」がもっとも高音で、馬にとって耳障りですから、僕はこれをもっとも攻撃的な舌鼓として使っています。
ですから、最初の舌鼓は「チッチッチッ」と、「ダメだよ、止まったら」という感じで入れます。
次の周回では、「コッコッコッ」と、「止まらないよ、止まらないよ」と歩き続けることを促します。
そして、最後は「クックックッ」と、「いいよ、OK。その調子だ」と励まします。
もちろん、必要ならばその後も馬の動きに合わせてハミを掛けてリズミカルに歩く手伝いをしたり、要所で内ももで馬体を挟んで集中を促したりもしますが、昨日のチョキには「その必要はなし」と判断しました。
1歳の秋でこの状態なら文句なしでしょう。
もちろん今後、プロの乗用馬として活躍していくためには、いくつも矯正しなければならない面がたくさん出てくるはずです。
その時に、矯正が強制にならないように注意しなければなりません。
例えば昨日、僕がチョキに与えた最初の一撃。
あの一撃には、僕のチョキに対する“叱責”が入っていました。
これは頂けません。
これから、遊馬のために働いてくれる大切な仲間ですからね。
強制するのではなく、正しい方向に導いていく。
「この人に付いていけば、一流の乗用馬になれるんだ」という勇気を与えられるような存在でなければいけません。
こういう未熟な馬と付き合うと、自分の未熟さを再認識させてもらえます。
貴重な経験をさせて頂きました。