走る理由

明日は京都競馬場で伝統の一戦『第157回天皇賞・春(G1)』が行われます。

第153回と言うことは、153年前から行われていると思われるかも知れませんが、第1回とされているのは79年前、1937年に行われた『帝室御賞典』です。

79年でも十分長い歴史があるわけですが、さすがに153年前はないですね。

153年前と言えば1863年ですから、薩摩藩と会津藩により長州藩が御所の警備から閉め出された八月十八日の政変が起きた年です。

開国か攘夷かでもめている中で、さすがに競馬はできなかったでしょうし、あったとしても、『天皇賞』か『将軍賞』かでももめていたことと思います。

年数よりも回数の方が倍近くなっているのは、春と秋の年2回行われているからですね。

僕が競馬を始めてからは今のような形で、春は京都競馬場の3200m、秋は東京競馬場の2000mで行われていますが、かつては春は阪神、秋は東京だったり、春も秋も3200mだったり、一度勝った馬は出走できなかったりしたそうです。

今年の天皇賞・春は絶対的な本命馬というのは見つけづらいですね。

人気の上ではグランプリホース・ゴールドアクター、菊花賞馬(’15年)キタサンブラック、2勝馬ながらG12着2回のサウンズオブアース辺りでしょうか。

人気にはならなそうですが、’14年の菊花賞馬トーホウジャッカル、距離適正高いトゥインクルにもチャンスは十分あるように思います。

1番人気が予想されるゴールドアクターは、一昨年の菊花賞で3着に好走してから、9カ月の休養を経て、昨年の7月から1000万、1600万クラスを連勝し、そのままの勢いでアルゼンチン共和国杯(G2)を勝って一気に重賞ホースの仲間入りを果たしました。

そして、苦戦が予想された暮れの有馬記念(G1)も制してしまったのです。

通算成績は14戦8勝2着2回ですが、デビュー7戦目から手綱を取っている吉田隼人騎手とのコンビでは、8戦7勝3着1回と相性抜群です。

戦績だけを眺めると、もっと人気になっても不思議ない感じですが、きっと勝ち方が地味だからではないでしょうか。

どんな相手と走っていても、いつも何か「やっと勝った」という印象を受けます。

確かに、こう言う相手なりに走るタイプの馬もいるのですが、ゴールドアクターの場合はちょっと違うような気がします。

この馬、実はそんなに強くはないのではないか…と。

吉田騎手の馬の力を信じる気持ちに、馬が一所懸命に応えようとしているように見えます。

有馬記念の約1か月前、吉田騎手はレース前に他馬に蹴られるというアクシデントに見舞われ、右膝蓋(しつがい)骨を亀裂骨折してしまいました。

当時の状態を吉田騎手はこう振り返ります。

「実際にはしゃがめないくらい痛かった。リハビリでも140度くらいしか膝が曲がらなかった。木馬では痛くなかったが、実際に馬に乗ったら反動がすごくて。有馬記念は痛み止めの注射をして臨みました。皿にヒビが入っていたんですが、それがパリンとなってもいいという覚悟でした」

“ゴールドアクターを手放したくない”そんな吉田騎手の執念が窺える騎乗でした。

有馬記念で他の人が騎乗しても、次は(吉田騎手に)戻すとオーナーも調教師も言っていてくれたみたいですが、もしも、他の人が騎乗して有馬記念を勝っていたら、その約束も反故になっていたかも知れません。

前の日の晩、厩舎前でゴールドアクターと吉田騎手はどんな会話をしたんでしょうかねぇ…。

デビュー11年目、ゴールドアクターとのコンビで初めてG1制覇を果たした吉田隼人騎手。

「ゴールドアクターを勝たせたい」

この気持ちを強く持っていれば、きっとこの馬は応えるでしょう。

しかし、

「天皇賞を勝ちたい」

そう思った瞬間、馬群に飲まれていくと思います。

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