ブチコ
珍しい白毛馬、しかもブチ模様が付いていると言うことで、とても人気のある競走馬ブチコが、6月4日に東京競馬場で行われた『麦秋ステークス』で、ゲートをくぐって放馬し、外傷を負うアクシデントがありました。
鞍上のルメール騎手は「船橋と一緒。前に出て頭を下げた。何もしていない状態でいきなりだったから、自分も少し怖かった。残念」と言っていますが、自分でも言っているように前走の船橋競馬場でも同じことをやっていますから、「いきなり」と言う表現はしてもらいたくないですね。
確かに、こう言う状態で競馬に出されたのでは、騎手としてはたまったものではないとは思いますが、“前科”があり、その時も乗っていた訳ですし、ルメールほどの騎手なら何とか回避してもらいたかったです。
また、前走を受けて陣営も「しっかりゲートの練習をしてきた」と言っていました。
どのような練習をしてきたのかは分かりませんが、こう言う結果になってしまったのだから、「失敗だった」と言うことになるでしょう。
では、こう言う場合どういう練習をするべきか?
まず、今回の映像を見る限りでは、ゲートそのものに問題があるとは思えませんが、前走はゲートに突進する前にうるさい面を見せていましたので、ゲートに悪い印象を持っていて、そこから逃れる方法として“ゲートをくぐる”と言う行動を選択した結果、巧くいったので再度試みたと言う事でしょうか。
ただ、ゲートそのものに悪い印象があるのなら、もう少し入るのを嫌がったりするのではないかと思います。
そう考えると、馬が嫌なのはゲートそのものではなく、“レースで走ること”ではないかと僕は思います。
そして、前走で突進してゲートをくぐり抜けた結果、発走除外となり、まんまとレースで走らずに済みました。
だから今回も、ハナからゲートをくぐってレースをエスケープするつもりだったから、すんなりゲートに入り、躊躇なく頭を下げたのかも知れません。
まぁ、真意はブチコにしか分からないことですが、僕の想像が正しければ、今後競走馬としてやっていくのはかなり難しいと思います。
もっとも、レースで走ることに嫌気を差している馬はごまんといます。
いや、むしろレースで走ることが嫌じゃない馬の方が珍しいのではないでしょうか。
一般の方は馬が走ることが、自然だと思われているかも知れませんが、基本的に馬は放っておいたら、ヌボーっと食べているか寝ているかで、好んで走ることはしません。
馬にとっての“走る”と言う能力は、“逃げる”と言う生存競争を生き残るために備わっているものであり、つまり走らざるを得ない状態と言うのは、命の危険が迫った状態を意味するわけですから、走ることによって多大なストレスが発生するのは至極当然のことだと思います。
先日のダービーで4着に入ったエアスピネルと言う馬がレースに出る度に、顕著にイライラを表に出すようになりました。
このような兆候を見せる馬は他にもいくらでもおり、エアスピネル陣営もそれに対して特別な手は打っていないと思います。
あくまでも、“そう言う(レースに対するイライラを表に出す)タイプの馬である”と言う認識を持ったうえで、普通に稽古をして、普通に目標とするレースを使っているだけだと思いますが、4戦目の弥生賞をピークに、皐月賞、ダービーと、そう言う面が目立たなくなった印象です。
いちいち管理馬のウィークポイントに特化した調教を施すよりも、何気なくサラッとこなし、やるべき事を常態化していくことが肝要かと思います。
競走馬も乗用馬も、好もうが好むまいが、与えられた仕事を拒否したら、自身の価値を失うことになります。
競馬にしろ、乗馬にしろ、「嫌がるのを無理やりさせるなんて可哀想」と言う人もいるかも知れませんが、そう言っている人が馬をペットとして最後まで面倒を見る可能性は皆無でしょう。
競走馬も乗用馬も、無理やりに押し付けても能力は発揮してくれません。
ですから、馬がその状況を受け入れて、持っている能力を最大限に発揮させることだけが、ホースマンとしての愛情表現なのです。
もちろん、ブチコの関係者の方々はみんなブチコが大好きで、それをホースマンとして表現するために、できる限りの手を尽くして今回のレースに臨んだはずです。
その上でのこの結果ですから、怪我をしたブチコもですが、落胆するスタッフの姿も痛々しかったです。
とにかく、今はブチコの怪我の回復を待ってと言う事になるかと思いますが、更正させるのはかなり難しいと思います。
何故なら、レースから逃れる術を知ってしまったからです。
新しい事を教えることはできても、身に付けてしまった悪癖を忘れさせるのは不可能だと思います。
そうなると、今後もその爆弾を抱えながら、スイッチが入らないように工夫するしかないと思いますが、もしもスイッチに触れてしまったとき、競馬の場合は多方面に迷惑をかけることになってしまいます。
今回もブチコ絡みの馬券の売り上げは9億3109万3800円にのぼっていました。
もちろん、その購入金額は返還されますが、もしかしたらブチコに会いたいがゆえに遠くから交通費をかけて東京競馬場にやって来た人もいるかも知れませんし、「ボク、ブチコが勝ったら手術を受けるよ」なんて話が、絶対になかったとは言い切れない訳で、これだけ人気のある馬を管理するのは様々な勇気と覚悟が必要です。
またいつの日か、ブチコが能力を発揮できる日が来る事を心から祈りたいと思います。