ピーマンを食べさせる
オーナーがバンビ(鹿ではありません)に地面に横たわる棒を跨ぐ稽古を付けていました。
これは、どんな馬にも必要な稽古ではないと思います。
では、なぜそんな稽古を付けていたのかと言うと、前日にトレッキング(外乗)コースに出してみたところ、道路を渡る際に白線を警戒する素振りを見せたからだそうです。
パドックに横たわる棒を道路の白線に見立て、それを跨いで行くことへの違和感を解消しようとしていたわけです。
最初は過剰に棒を嫌がっていたバンビも、何度も側を歩かされていくうちに、少しずつ慣れていき、近くを通ることにはできるようになりました。
しかし、やはり跨ぐと言うのは抵抗があるようで、直前でスッと体を交わしていました。
それでも、辛抱強く何度も何度も繰り返していくうちに、棒の前で立ち止まり、「どうしよっかなぁ…」みたいな雰囲気。
そこで、オーナーが正面から引っ張ります。
この時、馬の気持ちは「行ってみようかなぁ」と前向きになったり、「やっぱ止めておこう」と後ろ向きになったりを繰り返しているのでしょう。
ですから、肝心なのは馬の気持ちが前を向いた瞬間にクイッと、背中を押すように力を加えると言うことですね。
このタイミング(馬との呼吸)が合うと、馬は思い切って棒を飛び越えます。
そのあと、数回それを繰り返すと、飛ばずに跨いでくれるようになりました。
でも、最初は一刻も早くその場から離れたい訳ですから、前脚はゆっくり運んでも、後肢は慌て気味になります。
慌てているものですから、後肢の蹄が棒にコツンと当たったりすることもあります。
それに驚いて馬が興奮することもありました。
しかし、そこで宥めたりするのは逆効果だと僕もオーナーも認識しています。
何故なら、そこで時間を使うことにより、馬に苦手意識を植え付けてしまうことになるからです。
「棒(白線)を跨ぐことなんて、どうってことないんだよ」と、教えたいのですから、困難を克服するようなシチュエーションにはするべきではないと考えます。
あくまでも、「何でもないもの」を「何でもないもの」として、スルーできるようになって欲しいのです。
やがて、難なく跨げるようになったので、次は騎乗して臨みました。
ここでも、同じように徐々に徐々にです。
まっすぐ跨いで通ることを要求し続けつつも、無理強いはしない。
そして、自分から跨げるようになったので、オーナーが少し強めに「行け」と指示を出しました。
すると、また体を交わして拒否しました。
この行動が僕には解せないんですよね。
最初は得体の知れないものへの警戒心から、避けて通ろうとするのは分かるのですが、一旦クリアできたものが出来なくなると言うのがどうもねぇ…。
そう思って、「100発100中でクリアさせよう」と考えてしまうのが僕の未熟さです。
そのことをオーナーに問うと、「馬にしたら100回(そう言う場面が)あったら、100回とも避けて通りたいんだよ。だから、たまたま何回かに1回クリアしただけでも良しとしないと」と言われました。
なるほどですね。
つまり、ピーマンが苦手な子に「○○さんにもらったピーマン美味いわ。ほれ、ちょっと食ってみれ」なんて言ったら、子供が「じゃあ、ちょっと食べてみようか」と口に運んだりすることがあります。
だからと言って、「ほら、うまだろ?もっと食え、もっと食え」と皿によそったら、「いらねぇってのクソジジイ!殺すぞっ!!」って言われちゃいますよね。
ですから、さりげなく食べさせて、バカみたいに褒めないで、でも、「ピーマンも結構いけるだろ?」とすり込んでいくことが理想だと思います。
ただ、食べたがらないから食べさせないと言うのは、どうかと思いますね。
無理強いはしてはいけないけど、食べ物の有り難みを教えられないようでは、大人としていかがなものかと思います。
馬が嫌がるからと言って、それをそのままにして避けることを選び、それを馬のせいにするのは、ホースマンとしては恥ずかしいことだと思います。
馬が苦手なものをクリアできなかった場合は、馬に理由があるのではなくて、扱う人間の器量が不足しているのだと、肝に銘じておかなければいけませんね。