フジコ出産
本日未明。
フジコの馬房の前にスタッフが集まり、その瞬間を固唾をのんで見守っていました。
立ったり、横になったりを繰り返し、馬房をグルグル回り始めると、いよいよその時です。
バケツにお湯を用意し、両手を合わせる女性スタッフ。
大量の汗をかき、もがき続けるフジコから、仔馬の前脚が現れます。
獣医さんの指示にしたがい、その前脚を母馬と呼吸を合わせて引っ張り、出産を助けてあげます。
「よぉし。もう少しだ。頑張れぇ…。」
前脚に続いて頭部が出てくれば、あとひと一息です。
ズルッと全身が露わになり、感動の瞬間です。
しかし、それに浸っているヒマはありません。
羊水で濡れた仔馬の身体を、お湯で濡らしたタオルで拭きます。
30分後。
仔馬は立ち上がり、力強い音を立てて母乳を飲みます。
安堵の表情を浮かべたスタッフが、互いに顔の見合わせました…。
以上。
フジコが仔馬を産んだのは事実ですが、あとは全部作り話です(陳謝)。
遊馬ではなんだかんだで、年に2~3頭は馬の出産があるのですが、基本的には勝手に産んでくれます。
もちろん、数十分おきに見回りをしたりして、まさかの事態には備えますが、みんなで馬房を取り囲んで凝視するようなことはしません。
群れで生活する野性の馬たちも、出産の時は群れから離れてひっそりと産むそうです。
ですから、僕は見回りの際は、できるだけ視線を感じさせないようにしていました。
出産が始まっても、出てきたのが前脚であることを確認したら(後脚だったらエライことなので、すぐに獣医さんに連絡しますが)、隣の馬房の馬に話しかけたりなんかしながら、「どう?出た?」なんて声をかけたりして、仔馬が出てくるまで待ちます。
そして、出てきたあとも、ササッと寝わらで身体を拭くくらいのことはしますが、あまり綺麗にはせず、母馬に任せます。
すると、母馬は30分ほどかけて、仔馬の身体を舐めて綺麗にしてくれます。
この時間が、仔馬が母馬から愛情をもっとも受ける至福の時なのではないでしょうか。
手を貸す場面があるとしたら、このあとですね。
立ち上がったはいいけど、おっぱいの場所がわからなかったり、アプローチがおかしかったりする仔馬がたまにいるんですよ。
また、母馬が初産だと、母乳を飲ませたがらないこともあります。
これは一大事ですから、巧く初乳を飲めるように手助けします。
初乳には、抗生物質としての働きもあるし、腸の活動を促す役割もあり、仔馬が馬として健康に生きていくための、もっとも大切な栄養と言えるのではないでしょうか。
フジコはばんばの預かり馬ですから、この仔馬がどんな道を歩んでいくのかは分かりませんが、少しでもいい馬生を送れる手伝いができたらいいと思います。